2009年9月

1日(火)
 親知らずの抜歯というのをネットサーフィンしてみますと、悲惨な症例が唸るほど出てきまして、それを熟読しているだけで憂鬱になってくるものですが、かかり付けの歯医者さんの腕が良かったからなのか、僕の体が異様に鈍いからなのか、何が理由なのかは良くわかりませんが、抜糸後も全くいたくありません。抜いたか抜いてないか分からないとまで言ってしまうと嘘になりますが、幾許かの喪失感があるくらいで、ネットに頻繁に見かけるような、痛くて眠れないとか、腫れるとか、そういう症状が怖いくらいに何も出てきません。

 そもそも抜きますよとも言われずに抜き終わりましたという歯医者さんの声を聞いて、知らず知らずのうちに親知らずを失っていたので、こんなにも簡単に親知らずっていうのは抜けるものなのかと拍子抜けしてしまったくらいです。こんなに簡単に終わるのならば、色々と沁み始めた大学院生のうちに抜いておくんだったと、今更になって後悔しているくらいです。ただ、舌で確認してみて、昨日まではそこにあった親知らずが存在していないっていうのは、なんだか寂しいような気持が溢れてきます。沁みる原因だったはずなのに、人の心というのは不可思議なものです。

 ところで、日曜の選挙の結果として、鳩山由紀夫内閣が誕生するのがほぼ確実なわけですが、吉田茂の孫から鳩山一郎の孫へと政権がバトンタッチされるというのは、なかなか因果めいていていいですねぇ。吉田茂から鳩山一郎への政権交代っていうのを、孫の代にも吉田茂の孫から鳩山一郎の孫へって、ちょっとした小説よりも手の込んだ話です。ちなみに鳩山由紀夫を支えた小沢一郎の父親、小沢佐重喜は吉田茂の側近として、交代前の第5次吉田内閣で建設大臣を務めたのち、鳩山内閣以降はしばらく雌伏していくのですが、親子で担ぐ相手が逆転するというのも因縁めいていてなかなかです。

6日(日)
 そういえば、新型インフルエンザのワクチン接種の順序が発表されましたね。医療関係者が第一なのはさておき、続いて、心臓病や糖尿病などの基礎疾患がある人たちが続き、妊婦、就学前の児童、1歳未満の小児の両親までが国産ワクチンの対象になっています。輸入ワクチンには、小中高生と65歳以上の高齢者ということで、ここでワクチンは打ち止めなので、30代半ばの男などは対象外のようです。まぁ、新型インフルにかからないことを第一義に、かかったらすぐにタミフルを処方して貰うようにしましょう。

 しかし今回の決定で意外なのは、鉄道や飛行機などの公共交通機関関係者や、水道やガス・電力といった公益事業関係者が、軒並み除外されてしまっていることです。政府の判断としては、それらの関係者が少々罹患しようとも、大きなパニックは起こらない程度の流行病だという認識でいるためでしょう。健康体の成人は、普通のインフルエンザ並に苦しむだけで、死ぬ危険性は低いということだと思いますので取り敢えずはそれを信用しておきたいところです。まぁそうはいっても、北海道での40代女性が、処方されたタミフルを飲まずに放置しておいたら、持病もないのに劇症化して亡くなってしまったというケースもありますので、タミフル類だけはちゃんと備蓄を増やして貰いたいものです。

 あと現状では報告例は少ないものの、タミフル耐性の新型インフルエンザも見られるようでして、こちらが世界的に流行し始めると、また新たな局面として対応が必要になってくるのでしょうねぇ。

 ところでようやくと〈ハリーポッターと謎のプリンス〉を見てきました。シリーズの第6作目でして、5作見たのだから6作目もと思ってみましたが、第7作目の〈ハリーポッターと死の秘宝〉は前編と後編に分かれてするということなので、たぶん映画第7作目と第8作目も見てしまうことでしょう。監督は前作から引き続きデビット・イェーツでして、彼が7・8作も担当するとか。まぁ、ここまで来てしまったら良いとか悪いとかではなく、最後まで見続けるしかないでしょう。ダニエル・ラドクリフもエマ・ワトソンもみんな大きくなったなぁっと父親のような気持で見られます。

 しかし、マクゴナガル先生役のマギー・スミスがとっても老いていまして、それが少々痛々しかったりします。1934年生まれですから今年で75歳のはずですが、年齢以上に魔女魔女しくなっています。ドラコ・マルフォイ役のトム・フェルトンは身長が180cmまで伸びたとかで、賢者の石の頃の小憎らしい感じからは結構変わってしまいました。こういう長編シリーズものをする場合、しかも1作ごとに1歳づつ年齢が上がっていく設定の場合、子どもの成長っていうのは如何ともし難いものがありますが、ルパート・グリント演じるロン・ウィーズリーがモテモテなのにどうも合点がいかないのは僕だけでしょうか…一番変わらないのはアラン・リックマンふんするスネイプでしょうか。

 今作は今までの中で一番スピード感と迫力が欠けているような気がしまして、ダンブルドア校長の戦闘シーンとかいくつかの見所はあるものの、そういう意味での大作感はあまりありません。一方で、過去のシリーズを見ていればこそ楽しめるand納得できるシーンが満載でして、常連さん向けの映画になっています。第6作目から見始める人なんて捨象していいくらいなんでしょうが、長い原作を詰め込むためには致し方ないのかなぁなどと考えてしまいます。でも結局、第7作目も第8作目も見続けると思いますが…

11日(金)
 そういえば、月末に東洋大学で開催される社会経済史学会第78回全国大会で、長崎沖に浮かぶ軍艦島に関する報告を行いますので、「おしらせ」を更新しておきました。あと、同じく陶磁器業研究をされている帝塚山大学の山田雄久先生が、拙著への書評を書いてくださいましたので、その情報もアップしておきました。初めての書評でして、自分の本に書評を頂けるというのは嬉しい限りです。

 ところで、鳩山内閣では二酸化炭素の削減ということで、世間的にはあたふたと大騒動になっています。すべての持ち家には太陽光発電を完備させるとか、世帯の負担額は1世帯当たり650万円だとか、色々となっているところですが、本当にこんな政策は行われるのかどうか疑問です。織田信長が本拠地を移転する際に、二ノ宮山の不便な立地に移転するということを家臣にしめして後、小牧山に移転したという故事に基づき、いや単に朝三暮四でもいいのですが、もうちょっとゆるい数値を出してくるのではと思います。このまま発言通りに二酸化炭素を削減するならば、日本の産業界は壊滅してしまうことでしょう。それにそもそも、高速道路無料化によって二酸化炭素の大量排出増が見込まれていますから、それとの整合性も全く取れませんし、普通に考えればブラフだと思います。

 あと産みの苦しみで社民・国民両党との連立が難航しているようですが、基本的にこの2党は参議院でのポストが魅力なわけです。そして、1年後には過半数改選の参議院選挙が待っていますので、ここで民主党が勝って単独過半数を取るか、自民党が復調して公明党と共産党と合わせて過半数を押さえるかすれば、参議院でキャスティングボートを握る社民・国民の2党の存在価値はなくなってしまいます。そうなったら切り捨てるだけでしょうから、基本的には1年余りの間だけ囲っておきたい2党への態度ということで、民主党としてもなかなか扱いに思案するところなのでしょう。また逆に、社民・国民両党も、1年後に切り捨てられないために必死なことでしょう。もうしばらくゴタゴタは続くのでしょうか。

21日(月)
 シルバーウィークの中日ですが、織田裕二が主演していてフジテレビ50周年記念の〈アマルフィ-女神の報酬〉の話でも。夏の映画なのに2009年クリスマス直前から話が始まりまして、明らかにメインは今年のクリスマスのフジテレビ周年に合わせてそこで放映するんだろうなぁっていうのがアリアリでして、それに先んじて少々稼ごうという腹の作品なのが分かって最初に萎えます。監督はフジテレビの西谷弘でして、全編をイタリアでロケをしたという豪華版です。今年の年末は皆さんで〈アマルフィ〉を堪能してあげましょう。

 話はミステリーなんですが、開始直後に犯人は分かります。犯人の動機も分かります。トリックも見破れます。犯人が何をやらかして、ストーリーが転じるかもう想像が付きます。そういう意味で、ミステリーとして見ると3流ドラマもいいところで、土曜ワイド劇場の方が最近では手が込んでいるのではないでしょうか。そのくらい、話の流れは陳腐ですので、そこを期待して映画なり年末特番なりを見てはいけません。

 この映画の一番の見所はイタリアの街や建物の美しさであって、アマルフィでの空からたぶんヘリかなんかだと思いますが、そこからの長回しで流れていく風景は見ものです。アマルフィ海岸は世界遺産に登録されているようですが、それがよくわかる美しさですねぇ。次の見所はサラ・ブライトマンの澄んだ歌声です。主題歌にもなっている〈TimeTo Say Goodbye〉は絶品でして、本人が劇中でサラ・ブライトマン本人役で歌っているのはなかなかです。しかし、イタリア映画で見るイタリアの風景と、日本映画で見るイタリアの風景っていうのは、なぜか違って見えるんですよね。映像美っていう点では、日本人的な感性で映したイタリアの方がしっくりきます。

 あと、役者の中では天海祐希の演技が図抜けています。子どもを誘拐された母親役を、毅然としながらも儚く、崩れ落ちつつも妖艶に、見事に表現しきっていまして、織田裕二も、佐野四郎も、佐藤浩一も、福山雅治も、大塚寧々も、戸田恵梨香も、伊藤淳もみんな喰われてしまっています。今回の作品で一番名を挙げたのは天海祐希でしょうから、今後の活躍も期待されるところです。しかし、織田裕二はやっぱり織田裕二でして、そういう安心感がありますねぇ。木村拓哉が何を演じても木村拓哉なのはあまり好きではないのですが、織田裕二が何を演じても織田裕二なのはお気に入りです。ひとえに僕の好き嫌いの問題でしょうけど。。。