研究者を目指す人へ(4) |
★2つめ以降の研究
論文を1本レフリー誌に掲載決定されると、次の研究へと移らなければいけません。研究者とは、一生涯研究が続く人生なのですから。しかし大学院生の場合、この2つめの研究を何にするかというのは、非常に重要な問題であります。それは、博士論文を視野に入れなければならないからです。昨今の就職事情では、博士号を持っている(博士号申請中でもだいたい同じ扱いになる)ことが、採用の条件になっている大学も増えています。こういう環境に対応するためには、2つ目を何を研究しても良いとは言い切れなくなっています。
博士論文を書くということは、2つめの研究には1つめの研究との連続性というか、大きな枠の中での位置づけと言うか、そう言う物が要求されるようになるのです。で、大きな枠の中で必要となる研究となると、1本目の研究以上に資料探しやデータ探しが困難となります。修士論文や1本目の研究の時には、資料やデータが無ければ、ひとまずは捨て置けばいいと書きましたが、博士論文の構想の一部となると、そうは言ってもいられなくなります。じゃぁどうすれば良いのかと言われると、僕も未だ考えがまとまっている訳ではありませんで、僕は頑張って史料探しをしましたとしか言えません。すいません。
しかし、1本目の研究をしている時に、その研究では使えないけれども、色々と面白そうな資料やデータというのは入ってくるものでして、それらを大切にしてやれば道は開けるのではないでしょうか。あと、1本目の研究をしている時に、図書館や企業や史料館などの人との交流も生まれてくるでしょうから、そう言う人的交流の中で、資料・データ探しというのも前進するものと思います。目の前の研究に打ち込んでいる時にでも、将来的に使えそうな資料・データに貪欲なまでにアンテナを張り巡らせておく、それが研究者として必要なスタンスなのではないでしょうか。
基本的には博士論文を完成させるまでは、2本目以降はこれの繰り返しになるだけです。
★大学院5年目に考えること
さて、博士課程3年目となると、来年以降どうするかという切実な問題に直面します。日本学術振興会の研究員への応募は当然皆しているでしょうが、確か日本経済史で年1枠か2枠とかしかないので、なかなかこれに当たるのは難関です。他には各大学の助手ポストがありますが、東大経済も僕が最後になりましたし、全国的に削減傾向にあります。東大社研・立教など、研究助手ポストが残っている大学は、是非とも若手育成のためにもポストを死守して貰いたいものです。あとは、COEとか色んな任期付ポストがありますので、教官たちからの情報を聞き漏らさないようにしましょう。うち(九大記録資料館)の助手ポストは完全な研究助手ではなく、資料館の雑務もありますが、それでも貴重な若手ポストなので、いつまでも残しておけるように頑張りたいです。将来公募が出たら応募してくださいね。
5年目からは色んな大学の講師・助教授ポストの公募にも応募することとなります。1本2本の論文であっても、緻密に審査して採用するケースと、論文の本数やどの雑誌に載ったかが重要なケースと、大学によって採用の基準はまちまちです。いい論文を大量に書いておけば安心なんですが、なかなかそうも行きませんからねぇ。数量で評価する大学が比較的多いので、僕は量を比較的重視していたのですが、採用された後に、社経史の論文1本の質で採用したと言われちゃいました。。。まぁ、そんなもんです。量を重視すべきか、質を重視すべきか、どちらが良いかは運次第でして、何とも言い難いですねぇ。
公募を出す先ですけど、基本的に北は北海道から、南は沖縄まで、何処であろうと公募に出すべきです。東京近辺がいいとか、地元の近くがいいとか、そういう話もちょくちょく耳にしますが、このポストの少ないご時勢に、それはチョッとハイリスク過ぎて、あまりお薦めできるスタンスではありません。大学の教官というのは、恐ろしいほどの買い手市場でして、売り手の側があれがいいこれがいいと主張しても、それが通る可能性は極めて低いです。人事は縁なのですから、採用して貰う大学に生まれる前から縁があったと思い、全国何処へでも行くようにしましょう。
とは言いましても、一つ難しい問題があります。それが、一つのポストに採用が決まったら、それ以外の公募先には応募の取り消しをするという慣習がこの業界にはあることです。もし採用決定後に、より好ましい大学から声をかけられて、採用を蹴ってしまったなどという事をすれば、その出身大学からは当分の間採用しないとかで、自分の後輩だとかへ多大なる迷惑をかけることになります。意外に思われますが、結構研究者の世界というのは義理と仁義の世界です。ですから、より好条件の大学に採用されるかもと思えば、悪条件の大学へ応募するのは考え物なんですが、これこそまさしくハイリスクハイリターンのスリリングな選択です。任期付ポストで任期がまだ残っているとかで無いならば、あまりお薦めしない方法です。
さて、次は博士論文に関して。 つづく。